2010年 WEG Kentucky大会の総括
意義 @チーム・ジャパンが結成できた。――長年の課題であったチームとしての世界選手権参加が可能になったことは、選手層の厚さができてきたということを意味している。これは、2007年から照月湖でCEIの大会を継続的に開催してきたことが大きく貢献している。 Aチーム・ジャパンは、日本でトレーニングを積み、国内で大会参加をしてきた人馬で構成できた――今までの個人参加選手の多くは、海外のリース馬での騎乗のケースが多かった。しかし、今回のチーム・ジャパン結成では、日本でトレーニングした馬と、国内大会でポイントを積み上げた人馬が選考された。海外のリース馬に頼る必要がなくなった。国内大会の開催が大きく寄与している。 B一人馬がWEGの大会で完走できた。――5人馬参加で1人馬の完走ではあったが、チーム戦参加国数21カ国の中で18位であり、チーム戦初参加でありながら上々の出来であったと考える。3人馬完走国数が8カ国、2人馬完走国数が2カ国、1人馬の完走国数8カ国という結果であった。しかも、第4レグまでは、チーム戦でも10位に浮上し、大きな期待を持たせてくれた。これは、第4レグまでで、3頭完走している国が10カ国しかないという事実を示している。第3レグまでは14位であった。第5レグからは、チーム・ジャパンにとって鬼門のリチェックが始まった。結果、このリチェックでチーム戦のポニーボーイ号、ファウスト号が引っかかり、個人参加のティム号まで引っかかってしまった。
Cスポンサーシップが確立できた。今後の選手・チーム派遣の筋道ができた。―――直前になって、凸版印刷株式会社が今回のWEG費用(特に馬を運搬する費用が膨大となる。馬は5頭を輸送しなければならない)を、寄付することを気持ちよく応じていただけた。宝島社からの寄付も決まっていたので、これらの資金の今後の有効な活用の方法をNPO法人では検討している。今後も、これら企業へのスポンサーとしてのアプローチをしていくことが可能となったと考えられる。 DAHRの馬が世界水準にあることを確認できた。―――今回参加した5頭の馬で、ひときわ環境の変化、馬運にもめげず、強い馬は、完走したギィタップ号であった。しかし、マキナ号、ポニーボーイ号の失権は不運な条件が重なった結果であるし、ファウスト号もリチェックのやり方をさらに工夫すれば、いけただろう。特に、1レグで失権となったマキナ号は、診療獣医の見立ては「肩かなーー?」とはなはだあいまいな見立てで、失権理由は不明としか考えられない。一番考えられる理由は歩様検査のパフォーマンス力が弱かったことだろう。 さらにリチェックで失権となった馬は診療病院に運ばれるのだが、3頭とも5分も立たずに退院してきた。これは、本当に失権だったのだろうかと、その判定に疑いを抱きたくなる状況だった。 とにかく、失権した馬も惜しかったと言いたい。 また、ティム号が馬運に強く、環境の変化に強いことを実証し、暑さにもっと強く、スピード力をもっとつけていれば、十分戦えただろう。
E留置検疫について、農水省の指定どおり2ヶ月+1週間ではなくなり、他の競技馬と同じ扱い、10日間の留置検疫でよいことになった。―――この件は、日馬連の対応が農水省から言われるままの状態であったが、エンデュランスの馬だけ2ヶ月+1週間の留置検疫は不当である、農水省と交渉するべきであると当方が強く主張し、日馬連の重い腰を上げさせたことが大成功であった。大会終了直前に10日間の留置検疫でよいとの知らせが入った。このルールは今後も生きるだろう。留置検疫の際にケンタッキーでお世話になった吉田直哉様の牧場とそのスタッフの方々にも感謝します。
F日馬連にエンデュランスという種目を認める姿勢がないことがはっきりとした。――日馬連にとって、世界選手権でエンデュランスをひとつの競技種目として認めていないような言動が多く、この間交渉して驚くことばかりであった。日馬連とも直接話し、実態がだんだんわかってきたが、エンデュランス本部にも大きな問題があることがわかった。エンデュランス本部は、費用の援助などは何もしてくれないでいいから、日馬連の傘下に入れてほしいとの要請があったのだから、世界選手権参加の際にエンデュランスの馬だけ馬運費用を出さないのも当然、ほかの競技種目ではCOCを取得した人馬には強化育成費を出しているが、エンデュランスには出さないのも当然、というのが、日馬連の言い分だ。この事実について、一般のエンデュランス競技者と我々アラビアン・ホース・ランチには何も知らされず、いざ世界選手権に参加しようとするとエンデュランス競技だけは差別されていることを始めて知ったのだ。 これに対して、アラビアン・ホース・ランチとしては、筋が通らない話に関しては、断固抗議をし、再検討を促し、多くの交渉を積み重ねてきた。今後、エンデュランス競技に関して、日馬連との関係をどのようにするか、日本エンデュランス協会の設立も含めて、システム、組織の構築を急がなければならないだろう。
G海外からの大きな支援体制・ボランティア体制ができた―――大会参加直前にアメリカ人の診療獣医に就任をお願いしたが、当方の期待以上に活躍してくれた。馬が飛行機でロスアンゼルスに到着した直後から、点滴、血液検査などをし、ホース・パーク到着後のトレーニング開始までの詳細なプランを立案してくれ、安心して、馬を大会に参加させることができた。また、アメリカで知り合いとなったライダーからボランティアとしてのグルーム参加の申し出があり(これは、大会直前にグルームの人数の追加が認められ、その制度を利用して、ライダーとして世界選手権に参加できないが、せめてグルーム・ボランティアとして参加し、WEGの大会の空気に触れたいとの意欲ある人々だ。)、ニュージーランド人も含めて、5名の参加・協力を得ることができた。このグルームの中に馬のマッサージを専門としているメンバーがいて、獣医と協力して馬のマッサージをしてくれた、さらに歩様検査も引き受けてくれて、見事なパフォーマンスを披露してくれ、グルームの中心的役割を果たしてくれた。
課題 @ ライダーの体力・気力の強化(馬の持っている能力をフルに発揮できない) 完走した人馬は55位と最下位であった。馬の力に十分余裕があるのだが、ライダーにとっては2回目の160km完走で息も絶え絶えのゴールだった。経験の少なさ、ライダーの体力のなさの露呈だった。馬とライダーの能力のバランスをよく考え、配馬をするという課題がひとつ。 同じようにリチェックでは行失権となったファウストは、リチェックについての取り組み方の工夫がまだまだ足りないと実感している。リチェックの際の獣医の見る重要ポイントは何かを把握する必要がある。 今回参加したライダーのうち二人が、160km2回目の挑戦であった。COCの取得で1回、2回目が世界選手権参加では、あまりにも未経験であったと、チームを組んだ側として、大いに反省している。これが、ライダーの体力のなさ、気力の弱さを露呈する結果となったのだから、チーム編成をするときに、もっと余裕のあるライダーを今後は選抜していくことが重要な課題だ。同じ土俵に、時速20km以上のスピードで、出産7週間後で今大会を1位で走り抜けている女性がいるという事実を前にして、素直にライダーのタイル奥・気力の強化策をとらなければいけないと感じた。
A 人馬ともにスピード力をつける。――― 1)馬のスピード:今回参加した馬のスピード力は、その能力を出し切っていなかった。 今大会での完走した人馬の5位までは時速20km以上、12位までは時速19km以上、18位までは時速18km以上、29位までが時速17km以上、33位までが時速16km以上、43位までが時速15km以上という結果である。時速19kmから15kmまでは、人馬とも日本での訓練で可能な数字ではないだろうか? 2)ライダーのスピード感:ライダーにとって、時速13kmキープが精一杯では、だめだ。時速14kmが出そうになると、ライダー自身が時速13kmまでの余裕の時間を自ら計算してしまうような事態では話にならない。 1)、2)の課題をよく考えると、時速16km以上をキープできる人馬が世界選手権の候補として、必要とされているということだろう。世界選手権とTEVISでは、人馬とも160kmを完走できる力が要求されているが、WEG, WECではスピード力が大きな要因となり、TEVISはまさしく忍耐力と危険に対する適切な判断力が必要とされる。 3)スタート時のスピード:また、スタート時点で、スタートの混乱に巻き込まれないといった用心はうまくできたが、距離を開けすぎていた。やはり中盤あたりでスタートするべきだったのではないだろうか。この最初の遅れが、どこまでがんばっても、追いつけない距離になってしまうのだ。
B 歩様検査の技量をアップする。パフォーマンス力、プレゼンテーション能力と交渉力の向上。 1) 歩様検査の技量をアップする。パフォーマンス力を高める。:背の高い人間 を特に教育する。――まず、第1レグでは行失権をとられたマキナ号であるが、ライダーの希望によって歩様検査をライダーが行ったが、歩様検査で重要なことは馬の歩様を見せるパフォーマンスであることを痛感した。8から9割以上が背の高いグルームが歩様検査を担当している中で、「ライダーが行う」という選択はよかったのだろうか?失権後、病院に連れて行かれても、肩に多少違和感があるようだとの診たてくらいしかなかったのだから、悔いが残る。 2)日本チームのプレゼンテーション能力の向上と、必要に応じて明快な異議申し立て、再審査の請求などの交渉力の向上:もう1頭、第5レグでの不運な出来事が、ポニーボーイの失権理由となってしまった。1位で完走した前年チャンピオン、マリア・ポントンのゴールと時間が重なり、観衆の大歓声が起こり、歩様検査中のポニーは興奮して乱れ、心拍と腸音にアンバランスが起きて、何回も計測されることになってしまった。通常ではこういった数値の異常が起きることはないので、事態の異常なことと関連していたと思える。結果として、そのまま代謝異常ととられ失権となってしまった。これも本当に不運な出来事で、仕切り直しとする交渉ができなかったかと悔やまれる。この2頭の失権は、本当に納得できず、もったいないことをしたと強く感じている。
C 馬運の課題―――馬の体力アップと馬運・移動に慣れさせる。経済的な問題の解決。 1) 馬運に強い馬の選抜:今回、世界選手権に馬を輸送して、今までマレーシアに2回運ばれたカメオは本当に丈夫な稀有な馬であると実感した。LAからマレーシアまで地球を四分の三周したカメオ。 まずは、タイアップの問題である。3日間足もほとんど動かせず、たちっぱなしになることでタイアップが起きる可能性がある。特にタイアップの経験がある馬は飛行機での長時間の馬運は避けたほうがいいと獣医から忠告を受けた。今後の馬の選定の際に、これらを判断基準として加える必要があるだろう。 2) 現地での獣医の確保と出国前の獣医によるケアー体制:到着後、現地の検疫所に収容されるが、そのときに、獣医を派遣できる体制が取れるかどうかは大きい。今回は、それが可能であり、点滴などの補液を行うことができた。とにかく、馬にも、この移動に慣れさせる必要がある。 最後に、初めての日本チーム結成を取材してほしいと私が依頼した世界でも有名なエンデュランス専門のウエブサイトEndurance NetのSteph Teeterさんに感謝します。よく目立つTeam Japanのユニフォーム姿の写真を多数Endurance Netに掲載してくれて、本当にありがとうございます。選手にとって、これだけ多くの騎乗中の写真が入手できることは、本当に幸せなことです。必ず、選手たちは写真の注文をすることでしょう。
もうひとつ、お礼を言いたいと思います。グルームとして航空運賃も自己負担で参加いただいた日本のグルームの皆様:ご協力に、本当に感謝します。選手に代わって、心からお礼申し上げます。 (文責:蓮見明美)
国別順位表
選手別順位表
大会参加レポート by佐々木彩妃 |