Arabian Horse Ranch 日本に、スポーツエンデュランスをもっと。
20120915
世界から
2012年WECレポート――アラビアン・ホース・ランチからの2人馬参加・2人馬完走、金色のメダルを授与される。

8月24日 快晴。獣医検査の日。日本チームの3頭獣医検査を通過。
ディフィニット・エントリーが29カ国154人馬。この獣医検査で失格・事前に参加取り止めとなった人馬数が7人馬となり、出走数は147人馬。

(写真:日本チームの記念写真。末尾をごらんください。)

ビデオ:獣医検査の模様。3頭とも獣医検査パス。



8月25日午前7時、チーム戦参加国数29カ国(個人参加も含めると38カ国)147人馬が一斉にスタートしました。AHRの北池・ギィタップ号と蓮見・カリーム号の2人馬は、落ち着いた時速15kmキープのスピードでスタートを切りました。今回は、せっかく日本チームが結成できたのだから3人馬完走で日本チームとしての順位を確保する、そのためには、戦略的に考えて最低制限時速プラスアルファーのスピードで走行し、必ず完走を目指す。例え下位であっても、このコースでの走行は時速15kmを確保できるとの判断があり、時速15kmペースを維持して第3レグまでは3頭を一緒に走行させる方針でした。
(写真:北池・ギィタップ号と蓮見・カリーム号。末尾をごらんください。)

しかし、福森ライダーは馬をコントロールできないと言い、第1レグから先頭集団の中に紛れ込み、時速20km以上のペースで進んでいくので、早々と日本チーム完走の方針は無理になってきました。世界選手権はチーム完走が大きな課題ですから、残念なことです。

日本チームの完走が無理になったとしても、アラビアン・ホース・ランチの2人馬を完走させるためには、クルーポイントでの人馬への援助が重要になってきます。今回は、毎回クルーポイントへ行ける体制を決め、人手を割くことにしました。道に詳しい矢口君、助手として矢口君の友人のパキスタン人のイギリス在住のエンデュランス・ライダーであるパリッシュの二人をクルーポイントの担当としました。
クルーエリアでのクルー体制について、今後のことを考えて日本人クルーの養成、そしてコミュニケーションのよさを目標に日本人のクルーで固めたい考えがありましたが、1人馬に2名とするには人員が足りず、北池・ギィタップ号のクルーはイギリスで留置検疫のために馬を預けていたGinge牧場のジェイミーにお願いせざるを得ませんでした。

今回の大会のレグ構成と距離は、第1ループ38km、第2ループ29km、第3ループ30km、第4ループ20km、第5ループ23km、第6ループ20kmとなっています。
難関門であるリ・チェックが第4と第5ループの2箇所となりました。第3ループまで、快調に進んできた福森ライダーの馬は、このリ・チェックで跛行失権となってしまいました。時速14km台でCoCを取得、レースでは、突然時速20kmで走行させるのは、馬への負担が大きすぎます。
どうやら、リ・チェックで失権となる馬がかなり多かったようです。

さて、最低制限時速プラスアルファーのスピードで走行、時速15kmをキープしていた2頭は、第2レグでアクシデントに見舞われます。草原に放置された牧草の大きな塊にカリームが驚いて横とび、蓮見ライダーは落馬、手綱が切れ、放馬となりました。幸い、近くにコース監視員がいて、カリームを捕まえてくれ、しかも引き綱をつないで、臨時の手綱を用意してくれました。クルーポイントにいる矢口君に電話で連絡をして、予備の手綱の手配を頼み、次のクルーポイントで付け替えました。このトラブルで、このループの時速は13.5km台に落ちました。しかし、今までの貯金のおかげでカットオフタイムの時速の14km台はキープしています。
第3レグは時速15.6km台で走行し、平均時速も14.8kmまで戻しました。

ビデオ:第3レグからの2頭の元気な帰還の姿。世界選手権では、ゴール前で馬から下りて引いてくる姿は珍しい。




ビデオ:先に走っている白馬が蓮見・カリーム号。後続で北池・ギィタップ号。



次が関門のリ・チェックがある第4ループです。時速15.5kmペースで2頭が入ってきましたが、カリームの心拍の下降傾向が落ち着かず、獣医検査場の前まで連れて行ったところでクルー判断により、さらに引き馬をし、心拍の下降傾向を見ることになりました。ここで、ベト・インの時間がカリームはギィタップに遅れること6分となります。しかし、ここで落ち着いて引き馬をし、心拍の下降傾向を再度観察するといった判断は正解でした。
獣医検査をパスしたら次は25分後にリ・チェックに連れて行かなければなりません。この間に馬に十分なえさと水を与え、心拍ベルトを装着し続け、心拍の安定と下降傾向を見ます。また、腸音の活発さも聞きます。えさを十分食べさせ、引き馬をして、歩様の変化のチェックをし、寒さに四肢が硬直することのないようにケアーを続けます。先ずは、第4ループの獣医検査通過後25分間の徹底した緊張するケアーの時間です。無事に2頭ともリ・チェックをパスしました。

カリームのベト・インに時間がかかったため、第5ループのスタート時間がカリームはギィタップに7分遅れることになりました。2頭の第5ループ出発後から、雲行きが怪しくなり、大粒の雨が降り始め、雷が鳴り、大きな稲妻が空を横断するよう走り始めました。この日は朝からシャワーのような雨が断続的に降ってはいましたが、テントを突き破るような爆雨。心配なのは木もない大草原の中を走っている人馬です。いつ、人馬に雷が落ちてきても不思議ではありません。雷雨の中、北池・ギィタップ号が無事に帰還。この時点で、ギィタップ号のクルーのジェイミーは大会がキャンセルとなったから、この獣医検査で終わりと言っています。北池帰還後すぐに、クルーポイントに行っていた部隊も帰還。クルーポイントにいたスタッフの情報によると、クルーポイントでは蓮見・カリーム号は北池・ギィタップ号に遅れること5分ほどと、かなりのスピードで追い上げていたようです。しかし、北池帰還後1時間近くたっても戻ってこないので、本部に問い合わせると、「スタッフの案内でゴールに向かっている」と奇妙な話が伝わってきたが、この情報の後も帰還してこない。予測の時間に遅れること1時間、駆け足をして、目を輝かしたカリーム号と大声で歓声を上げる蓮見が帰還してきました。

事情を聞いてみると、クルーポイントを出発した蓮見・カリーム号に対して、コース監視員がこの雨で道が見にくくてわかりにくいので一般道のところまで案内すると申し出があり、同行して走っていると、別のコース監視員に会い、監視員同士が話し始めて、本部に電話したり、といろいろとやっているそうです。最終的に、「この競技はキャンセルになった。あなたは第6ループである黄色コースに行って、そこからゴールを目指せ」と言います。
蓮見はこの話を不審に思いながら、監視員から黄色コースの道を示されたので、致し方なく黄色コースを目指して進みます。ところが、黄色コースを目指せと言ったコース監視員が追いかけてきて、「大会でクオリファイされたければ赤コース(第5ループ)を目指して、赤コースを完走しろ。」と言ってきました。この提案の方が納得いくので、今来た道を戻り、赤コースに戻り、気を取り直して走っていると、また、別のコース監視員が現れ、「黄色コースに行け」と言う。赤コースでクオリファイされると聞いていると抗議するが監視員が言い張るので、本部に確認するようにと言うが、本部の人間もはっきりとしないようです。最終的に、コース監視員は「あなたの責任で赤ループを行って下さい」と言い、この結論に従って赤コースを進み、あっという間にゴールにたどり着いたそうです。この黄色コースと赤コースの間を行ったり・来たり、話し合い・問い合わせの待ち時間は、優に1時間を超えてしまいました。何はともあれ、1時間のロスをしたので最低制限時速14kmキープが心配です。すぐにベト・インし、獣医検査に入り、問題なく無事にパスしました。

完走人馬数73人馬。北池・ギィタップ号69位(獣医検査に入る間に3人馬を追い抜いたようです)、蓮見・カリーム号73位。まさしく戦略的に考えた最低制限時速プラスアルファーのスピードで完走というプランどおりとなりました。コース監視委員の度重なるあやふやな指示がなければ、時速15kmをキープできたのに、残念であったと深く思うしだいです。結局、各ループで、10人馬以上が失権し、その失権理由の大半が跛行であることは、平坦なコースなのに、馬のスピードを出しすぎてしまった結果と言えるのでしょう。
アラビアン・ホース・ランチの2人馬は、“To finish is to win”のエンデュランスのモットーを達成し、勝者の証である金色のメダルを授与されました。
世界選手権は参加することに意義があるのではなく、完走することに意義があるのです。

(写真:完走の証の金色のメダルとリボン。末尾をごらんください。)

公式参加頭数 152人馬
大会前不参加数 5人馬、
失権人馬数74人馬
完走人馬数 73人馬
チーム戦参加国数 29カ国
チーム戦完走国数 10カ国 


世界選手権挑戦の今後の課題

1. 最低時速14kmのハードルの高さ―――今回、イギリスのEuston Parkの大会会場に行き、イギリスは山がなく平原が多い事を改めて実感した。この会場では、時速15kmは出せるとの結論が、2日前の練習結果だった。コース的にはもちろん、それ以上出せるのだが、馬はそれ以上のスピード・トレーニングをしていないので、15km以上の速さの走行は危険であった。今後は、日本でも、極力平地で直線的なコースを探し、スピード・トレーニングをするべきであるとの課題が出てきた。

2. アラブ勢のエンデュランス参入以来、高速化が進んできた。今回の選手権では、5位までが時速22.38km以上であり、ケンタッキーの勝者のマリア・ポントン以外は、UAEとバーレンのアラブの選手が占める。13位までが、時速21km以上で、スペイン、フランスの選手が各1名で、ほかはカタール、バーレン、オマーン、UAEだ。20km以上になると、完走者35位までとなる。完走者が73名だから、ほぼ半数が時速20km以上の成績だ。

3. 山国の日本のコースでCoC取得のためのコース設計は、アラビアン・ホース・ランチにとって、最大の課題であった。今年、新しく伊豆ホース・カントリーを開設し、パノラマコースの周回で多少なりとも高速化を図ることができた。今後とも、このコースのより平坦化を目指し、人馬の高速化トレーニングを続けていきたい。前回のケンタッキーWEGの大会までは、最低時速13kmであったが、今年のCoC取得最低制限時速は14kmとなった。現在、FEI要綱の改定が論議されており、来年春までには正式決定されるだろう。今までは、世界選手権主催の大会本部が最低制限時速を決定してきたが、今後は最低制限時速を14kmとすることになりそうだ。〔これは決定ではないので、最終的な決定を注意深く見守っていく必要がある〕

4. この要綱の改定に伴って、チーム戦も変わってくる。日本としては、チーム戦を有利に戦えることができるように6人馬をそろえたい。

5. 今後のクルー体制の課題としては、@1人馬に最低3名のクルーが必要(今回、目算が狂ったのは、馬をつないでおく木、柵などが何もなく、一人は馬の引き綱を持っていなければいけなかった)、Aクルーの渡航費用の捻出(いつまでもボランティアにだけ頼っていられない)、B全員が簡単な英語が理解・話すことできる。といった点がある。

6. 獣医検査の厳しさ―――日本でCEIの大会に参加した経験のあるライダーはよくご存知のことと思いますが、僅かな跛行も見逃さない厳しさは、今回の大会でもリ・チェックで実証済みです。日本では、エンデュランス競技のFEI獣医の育成を目指していきたい。

7. 農林水産省の60日滞在規定―――ヨーロッパに行くと、馬天国、馬にとって優しい環境を痛感しますが、日本から滞在国に60日留置しなければならないという農林水産省の規定は、今回のように現地の環境に馬を慣らす意味では有効に使えますが、経済的・精神的には大きな負担です。この負担は、今後も変わることはないでしょう。より費用の圧縮と人的負担を少なくすべき体制を模索しなければならないでしょう。

8. 今後、世界選手権に日本チームを結成し、6人馬を送り込むためには、これらの課題をクリアしていかなければいけません。

日本チームの記念写真 北池・ギィタップ号 蓮見・カリーム号
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完走の証の金色のメダルとリボン
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